「債務整理」北海道拓殖銀行と系列不動産会社への不正融資

原告
上記
主張

主文

1 控訴人C及び控訴人Dの控訴のうち,原判決を取り消した上で本件を東京地方裁判所に移送する旨の裁判を求める部分を棄却する。
2 前項において棄却した部分を除く本件控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 本件附帯控訴を棄却する。
4 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨及び附帯控訴の趣旨

1 控訴の趣旨
(控訴人C及び控訴人D)
(1) 原判決を取り消す。
(2) 本件を東京地方裁判所に移送する。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(控訴人ら全員共通)
主文第2項及び第4項と同旨
2 附帯控訴の趣旨 
(1) 原判決を次のとおり変更する。
控訴人らは,被控訴人に対し,連帯して10億円及びこれに対する,控訴人A,控訴人B,控訴人Cについては平成10年12月30日から,控訴人D,控訴人Eについては同月31日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は第1,2審とも控訴人らの負担とする。
(3) 仮執行の宣言

第2 事案の概要

本件は,被控訴人が,株式会社北海道拓殖銀行(以下「拓銀」という。)の代表取締役又は取締役であった控訴人らに対し,拓銀の株式会社栄木不動産(以下「栄木不動産」という。)に対する融資の際に,控訴人らには取締役としての善管注意義務違反等の法令定款違反があり,これによって拓銀が被った損害についての商法266条1項5号に基づく損害賠償請求権を拓銀から譲り受けたとして,損害金の一部である10億円について,控訴人らの連帯による賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたものである。
原審は,被控訴人の本件請求のうち,10億円の賠償請求については,いずれも認容し,遅延損害金については,拓銀の監査役による上記債権譲渡及びそれに付随する行為を追認する旨の通知が各控訴人に到達した日の翌日からの部分のみを認容し,その余の遅延損害金請求部分を棄却したところ,控訴人ら及び被控訴人は,それぞれの敗訴部分を不服として,前記第1記載のとおりの裁判を求めて,控訴及び附帯控訴をした。
1 争いのない事実及び各項掲記の証拠から容易に認められる事実
(1) 控訴人らの拓銀における役職(甲28)
ア 控訴人Aは,平成元年4月から平成6年6月まで拓銀の代表取締役頭取であった(乙イ2)。
イ 控訴人Bは,平成元年4月から平成5年6月まで拓銀の代表取締役副頭取であった。主な担当業務は,秘書業務及び人事業務であった(乙イ1)。
ウ 控訴人Cは,昭和63年4月に拓銀の代表取締役副頭取に就任し,平成2年当時は,東京に駐在して,本州地区の統括業務を担当していたが,同年6月28日に退任した(甲28,乙ロ48,49)。
エ 控訴人Dは,昭和62年12月に拓銀の常務取締役に就任し,平成2年当時は,東京に駐在して,東京業務本部長を務めていたが,同年6月に退任した(乙ロ45,46)。
オ 控訴人Eは,平成元年4月から平成5年6月まで拓銀の代表取締役副頭取で,平成2年2月当時は,東京に駐在して,国際本部長及び資金証券本部長を務めていた(乙ハ4)
(2) 拓銀千葉支店(以下「千葉支店」という。)における本件関連取引の経緯
ア 千葉支店は,昭和63年7月ころ,Fとの間で取引を開始し,その後,Fの紹介により,栄木不動産とも取引を開始した。栄木不動産は,東京都江東区aにある不動産売買等を目的とする株式会社であり,Gが代表取締役を務めていた。
Fは,千葉市に所在する株式会社皆川の代表取締役であるが,栄木不動産の事業の協力者であり,契約の交渉や地上げに当たり,栄木不動産の営業本部長と称することもあった。
(甲4,9,23の1の1・2,37の1,95,乙ロ52)
イ千葉支店の平成2年1月当時の副支店長であったHは,同月10日,Fが持ち込んだ栄木不動産振出しの小切手(支払銀行は株式会社第一勧業銀行(以下「第一勧銀」という。)亀戸支店)について,Fの要請に応じて,支払銀行に対する確認や交換をすることなく持込小切手の即日入金払戻(いわゆる当日他券過振)を行い,同日以降,千葉支店は,Fの要請に応じて,ほぼ連日,同人が持ち込む栄木不動産振出しの小切手に対する当日他券過振を続けた。
過振出金した資金の大半は,栄木不動産の預金口座(小切手の支払銀行である第一勧銀亀戸支店の栄木不動産名義の口座等)に送金され,Fが前日持ち込んだ栄木不動産振出しの小切手の決済資金に充てられながら,過振金額は次第に増大していった。当時,F及び栄木不動産は,株式会社ケーヨー(以下「ケーヨー」という。)の株式の大量売買(仕手戦)を行っており,過振金額の増加部分は,この株式売買の資金に使用された。
(甲9,33,原審における証人I)
ウ 千葉支店の平成2年2月当時の支店長であったJは,同月13日,上記過振の件を知り,同月20日,東京業務本部へその旨報告し,その後間もなく,上記過振の件は,控訴人らの知るところとなった。
なお,同日も,前日までと同様,当日他券過振が行われ,過振に係る小切手の金額は44億9000万円に達していた。
同月21日,22日及び23日の過振に係る小切手の各金額は,48億4000万円であった。
(甲9,23の1の1・2,23の2,33,57,68,乙ロ12)
(3) 拓銀における控訴人らの対応等
ア 控訴人らは,平成2年2月26日,全員が出席して投融資会議(以下「本件投融資会議」という。)を開催した。
その結果,栄木不動産から同社及びGの所有物件等について根抵当権の設定(累積極度額は77億円)を受けることを前提に,栄木不動産振出しの小切手の資金不足による不渡りを避けるために,拓銀から栄木不動産に対し,過振と同額(48億4000万円)の手形貸付けを行うこと,さらに,栄木不動産に対し上限20億円の追加融資を行うことが決定された(甲9,10の1)。
なお,拓銀における投融資会議は,昭和59年5月10日の常務会(拓銀の取締役会規程により,取締役会権限事項の具体的細目の決定及び日常の業務を決定するために設置された機関で,頭取・副頭取・専務取締役及び常務取締役を構成員とし,経営に関する重要な方針について随時,書類による持ち回り等の方法で協議し,頭取が決裁することとされていた。)において設置することを承認された会議体で,具体的には,担当本部長の一般取引先授信権限であった30億円を超える授信について,担当本部長からの付議によって,頭取,副頭取及び担当本部長限りで,かつ,持ち回り協議の方法で融資を決定することができることとされていた(甲3の1・2,乙イ5,7,乙ロ7の1・2,35,36)。
イ 拓銀は,栄木不動産に対し,平成2年2月26日,48億4000万円を手形貸付けの方法により融資し(弁済期は同年3月26日。以下「本件手形貸付」という。),さらに,追加融資として,同年2月26日に5億円,同月27日に3億円,同月28日に3億円,同年3月1日に3億6000万円,同月2日に2億5000万円,同月8日に1億4000万円,同月12日に1億5000万円と,7回にわたり,合計20億円を手形貸付けの方法により融資した(争いがない。以下「本件追加融資」という。)。
(4) 本件手形貸付及び本件追加融資後の経緯
ア 拓銀の検査部は,平成2年2月28日から千葉支店における過振事故についての調査を実施し,その調査結果に基づいて,拓銀は,同年7月までにH及びJを免職とし,控訴人ら各人について,それぞれ3か月間の役員報酬減額処分10パーセント(控訴人A及び控訴人Dについては20パーセント)を実施したほか,控訴人Dは,同年6月に引責退任した(甲9,29の1・2,33)。
イ 栄木不動産は,平成3年2月18日,1回目の手形不渡りを出し,同月22日,東京地方裁判所に対し,和議開始を申し立てたが,同月27日,2度目の不渡りを出したため,同年3月4日,銀行取引停止処分を受け,事実上,倒産した(甲21,30の2)。
ウ 拓銀は,平成9年11月17日に,経営が破綻し,平成10年11月11日,株式会社整理回収銀行(以下「整理回収銀行」という。)との間で,拓銀の役職員に対する損害賠償請求権等を含む資産を,同月16日付けで整理回収銀行が買い取る旨の資産買取契約を締結した(ただし,後記2(2)ウのとおり,控訴人C及び控訴人Dは,損害賠償請求権が売買されたことを争っている。)。
拓銀は,同年12月3日付けで,そのころ到達した内容証明郵便をもって,債権譲渡の事実を控訴人らに通知した。
なお,上記各通知書には,いずれも本件に関わる譲渡債権の表示として,次のとおりの記載がなされていた。
「通知人が株式会社栄木不動産に次のとおり貸し付けたことによる通知人の貴殿に対する一切の損害賠償請求権
(1) 平成2年2月26日金48億4千万円
(2) 平成2年2月26日金5億円
(3) 平成2年2月27日金3億円
(4) 平成2年2月28日金3億円
(5) 平成2年3月1日金3億6千万円
(6) 平成2年3月2日金2億5千万円
(7) 平成2年3月8日金1億4千万円
(8) 平成2年3月12日金1億5千万円 」
(甲1,2の1,2の2の1から5)
エ 整理回収銀行は,平成10年12月15日,控訴人らに対する本件訴えを提起し,同訴状は,控訴人A,控訴人B及び控訴人Cに対しては同月29日に,その余の控訴人に対しては同月30日に,それぞれ送達された(顕著事実)。
オ 整理回収銀行は,平成11年4月1日,株式会社住宅金融債権管理機構と,同社を存続会社とする合併をし,同時に現商号(株式会社整理回収機構)に改めた(顕著事実)。
カ本件手形貸付に係る48億4000万円については,いまだ返済されておらず,本件追加融資に係る20億円については,担保物件の処分等により一部返済を受け,現在の残高は,12億6816万4671円である(甲35の2の3,35の3の1,35の4の1,35の5の3)。
2 争点
(1) 本件訴訟の専属管轄について
(控訴人C及び控訴人Dの主張)
本件は,被控訴人が請求の主体となって,商法266条に基づいて,控訴人C及び控訴人Dの取締役としての責任を追及している訴えであり,拓銀は本件訴訟における訴外会社である。そうすると,本件での商法268条1項の本店は,被控訴人の本店であり,本件訴訟の管轄は,商法268条1項により,被控訴人の本店所在地の裁判所である東京地方裁判所に専属する。
したがって,専属管轄がない原審裁判所の判決を取り消した上で,本件を東京地方裁判所に移送すべきである。
(被控訴人の主張)
本件は,拓銀の取締役であった控訴人C及び控訴人Dに対し,商法266条に基づいて拓銀が被った損害の賠償を求めるものであり,この場合における商法268条1項の本店は,控訴人C及び控訴人Dが取締役に就任していた拓銀の本店でなければならない。
したがって,本件訴えの管轄は,拓銀の本店所在地の地方裁判所である札幌地方裁判所に専属し,原判決には,専属管轄の違背はないのであるから,控訴人C及び控訴人Dの上記主張は理由がない。
(2) 拓銀から整理回収銀行への債権譲渡の効力及び本件訴えの提起についての拓銀監査役による承認の要否等について
(控訴人C及び控訴人Dの主張)
拓銀が,本件請求に係る損害賠償請求権を整理回収銀行に譲渡したのは,整理回収銀行に本件請求訴訟を遂行させることを主たる目的とするものであったから,信託法11条に違反する。
したがって,拓銀と整理回収銀行との間における本件請求に係る損害賠償請求権の債権譲渡契約は無効であり,被控訴人は,本件請求をすることができない。
(控訴人A,控訴人B,控訴人C及び控訴人Dの主張)
拓銀が,本件請求に係る損害賠償請求権を整理回収銀行に譲渡したことは,次の理由から無効というべきである。
ア 拓銀は,取締役会において,本件請求に係る損害賠償の請求金額や支払方法について決議をしていないし,控訴人らにその債権の内容を示した書面を送付していない。
イ 控訴人らに対して本件請求に係る損害賠償の請求をする決議をしたことは,解散決議をした拓銀の清算業務の範囲を超える。
ウ 拓銀と整理回収銀行との間の資産買取契約には,控訴人らに対する損害賠償請求権は含まれていなかった。
エ 拓銀が整理回収銀行に譲渡することができるのは金融債権だけであり,損害賠償請求権は譲渡ができない。
オ 拓銀の債権譲渡には,商法245条1項の決議がない。
カ 拓銀の取締役に対する損害賠償請求権は,拓銀に固有の権利であり,譲渡することができない。
  また,会社が取締役に対し訴えを提起する場合には,監査役が会社を代表することを要し(商法275条ノ4),したがって,仮に,会社が取締役に対する損害賠償請求権を譲渡することができるとしても,その場合には,少なくとも監査役が譲渡を承認することを要すると解すべきところ,本件においては,拓銀が本件請求に係る損害賠償請求権を整理回収銀行に譲渡した時点では,拓銀の監査役による譲渡承認の手続きは履践されていなかったのであるから,拓銀は,整理回収銀行に対し,本件請求に係る損害賠償請求権を譲渡できなかったのであるし,また,整理回収銀行が本件訴えを提起することもできなかったといわざるを得ない。
そして,拓銀の監査役の譲渡承認や本件訴え提起についての承認を欠いたままの状態で,控訴人らが整理回収銀行からの本件訴え提起を甘受すべきいわれはなく,後に拓銀の監査役が追認したとしても,本件訴え提起の当初に遡って上記承認の欠如が追完されることにもならない。
キ 拓銀から控訴人らに対してなされた債権譲渡通知は,本件請求に係る損害賠償請求債権の特定を欠いていた。
ク 控訴人らに対する損害賠償請求権を整理回収銀行に譲渡したことは,控訴人らを不利な立場にするものであり,権利濫用である。
(被控訴人の主張)
ア 上記控訴人らが主張する事由は,いずれも,拓銀が本件請求に係る損害賠償請求権を整理回収銀行に譲渡する上での有効要件又は譲渡障害事由となるものではない。
イ すなわち,拓銀が,本件請求に係る損害賠償請求権を整理回収銀行に譲渡することが,拓銀の営業の全部又は重要な一部の譲渡その他商法245条1項所定の事由に該当するものではないし,清算中の会社が取締役に対する損害賠償請求権を譲渡することは会社の清算業務に付随するものであって,清算業務の範囲内のものである。
また,会社が取締役に対する損害賠償請求権を譲渡するにあたって,その金額や支払方法を特定することは必ずしも必要とはいえず,当該取締役に対し,金額や支払方法を特定して通知することまでは要しないと解すべきである。
ウ 上記控訴人らは,会社が取締役に対する損害賠償請求権を譲渡し,又は会社の取締役に対する損害賠償請求権を行使するには,必ず監査役の承認を要する旨主張するが,商法275条ノ4は,会社が取締役に対する損害賠償請求権を訴えによって行使する場合についての規定であって,当該損害賠償請求権を他に譲渡する場合や譲受人がこれを行使する場合には適用がないものと解すべきである。
すなわち,同条は,訴訟の場における馴合いを防ぐ目的に基づくものであって,会社の取締役に対する債権の譲渡や譲渡後の第三者による訴求の場面にまで同条を適用する合理性はない。
仮に,本件において,拓銀から整理回収銀行への債権譲渡について,当時の拓銀監査役による承認を要するとしても,拓銀の監査役は,平成12年2月8日,拓銀の整理回収銀行に対する本件請求に係る損害賠償請求権の譲渡を含む資産買取契約及び一切の付随行為を追認するとともに本件請求に係る損害賠償請求権の内容及び請求金額を決定し,かつ,その旨を同月12日までに全控訴人らに対して通知した。
これによって,本件請求に係る損害賠償請求権の譲渡及びその後の本件訴訟の提起は遡って有効となったというべきである。
(3) 控訴人らの善管注意義務違反,忠実義務違反等による損害賠償責任の 有無について
(被控訴人の主張)
ア 取締役が法令又は定款に違反する行為をし,その結果会社に損害を与えたときは,当該取締役は,商法266条1項5号に基づき,会社が被った損害を賠償する責任を負う。
同号にいう法令には,取締役の受任者としての一般的義務である善管注意義務を規定した商法254条3項(民法644条)及び忠実義務を規定した商法254条ノ3等の規定が含まれることは当然であるが,そのほかにも,会社を名宛人とし,会社がその業務を行うに際して遵守すべきすべての規定もこれに含まれる。
ところで,銀行においては,銀行法1条が,銀行業務の公共性を明示し,もって銀行業務の健全性を強く要求していることからみても,銀行の取締役については,銀行業務の公共性,健全性の要請から,一般の営利企業の役員に比して,より厳格に業務遂行の責任を捉える必要がある。
したがって,銀行の取締役は,融資実行の決裁に際しては,貸付け当時のみならず,予想できる範囲で,将来の経済状況,景気の動向,資産価格の動向,各業界の発展衰退の動向を踏まえながら,貸付けの対象である個々の企業の業種,規模,業績,経営者の能力,経営状況,保有資産,事業の発展衰退の見込み,希望する貸付けの額及び使途,貸付けの必要性,提供できる担保の内容及び額,債務の内容及び額,返済状況,返済資金の調達の方法及び見込み,貸付けの社会的妥当性等の諸事情を考慮して判断する必要があり,貸付けを希望する個々の企業につき,これらの諸事情に関する情報を収集し,取締役間で十分な議論を行うとともに,銀行業務の公共性及び健全性の特性や,銀行に対する社会的要請に照らして合理的な判断をしなければならない。
イ 平成元年11月ころ,F及び栄木不動産らは,千葉支店から受けた資金で,エスビー食品株式会社(以下「エスビー」という。)の株式の仕手戦を仕掛けた。
これは平成2年1月には収束したが,控訴人C,控訴人Dらが面談をするなど,拓銀東京本部や控訴人らも関与することとなった。
さらに,平成2年1月から2月にかけては,拓銀東京本部は,拓銀株の大量買占めをほのめかしつつ20億円の融資を迫るF及び栄木不動産らのグループとの間で,拓銀株問題を何とか回避しつつ,栄木不動産への融資関係を処理したいとの思いから,せめぎ合いを続けていた。
その最中の平成2年2月20日,千葉支店による過振事故が本部に報告された。
同月22日,控訴人Dは,Gと面談した。この席で,Gは,過振について陳謝したものの,ケーヨー株仕手戦の山場であったこともあり,仕手戦が失敗に終われば,即栄木不動産の倒産につながることから,ケーヨー株の信用取引保証金を捻出するため,追加資金供与による支援を強く要請した。翌23日,控訴人Cの意向で,投融資会議の構成員(ただし,控訴人Eを除く。)に対する事故報告会が開かれ,控訴人Dから,栄木不動産によるケーヨー株の仕手戦は失敗に終わる可能性が高いこと等が報告され,栄木不動産に対する追加支援融資を行う方向で投融資会議を開催することが暗黙の了解となった。
これと並行して,同月22日,控訴人Dは,拓銀の元行員である不動産鑑定士のKに対し,栄木不動産所有物件のうち12物件について至急鑑定数字を出すよう依頼した。
同月25日,控訴人Dは,東京第二支店部の部長であったL,東京第二支店部の次長兼審査役であったM及びJ支店長らとともに,保全対策について協議した。
同日,Mらは,栄木不動産を訪れ,Gの了解のもと,不動産の権利証類を持ち帰り,引き続いて,担保の評価,契約書の作成等の担保関係作業にとりかかった。
翌26日,本件投融資会議が開かれ,控訴人らのほか,L及びMが同席した。
会議自体は,控訴人Dが,「千葉支店の他券過振事故に伴う栄木不動産振出しの小切手金48億4000万円を決済するため,及び栄木不動産の資金繰り倒産を防ぐため,運転資金としての20億円を上積みした68億4000万円を融資すべきである。」といった方針について概括的な説明をした上で,担保については,「50億円から70億円」あるいは「K鑑定士によれば担保十分ある。」などといった大雑把な話をし,融資関係書類もなく,目立った議論もほとんどないまま,約20分程度で終了した。
控訴人らは,エスビー株問題や拓銀株大量購入等に絡む経緯等を通じて,ケーヨー株の仕手戦の状況について現在何が問題となっているか,十分に認識していたが,実態としては,組織としての統一したコンセンサスが不明なまま,控訴人Dに一任の形で決裁が降りた形となった。
その後,本件投融資会議において控訴人らが決定したところに従い,短期間のうちに,栄木不動産に対する総額68億4000万円の融資(本件手形貸付及び本件追加融資)が実行された。
ウ ところで,銀行が貸出先に融資を行う場合,当然調査,検討すべき最重要課題として,資金使途の確認,返済能力の検討,担保の調査等があり,拓銀においても,「貸出運営上の留意点」(甲101の1)として,これらの点が明記されていた。また,投融資会議は会議体である以上,十分な情報の下に適正な判断を行い得る手続,状況であることが,決裁を行う上で不可欠の前提となる。
ところが,控訴人らは,本件投融資会議において,本件追加融資の資金使途がケーヨー株の信用取引の証拠金あるいはこれを含んだ仕手戦収束資金であったことが明らかであるにもかかわらず,資金使途の確認や,真に20億円が必要なのかという金額の妥当性の検討を意図的に避け,Gからの無謀な要求に漫然と従う形で決裁をした。
本件手形貸付についてみても,それが過振小切手決済資金であることは明らかであったところ,過振を形式的に解消し,別の融資先への正常融資の形に切り替えるため,回収可能性がほとんどないことを知りつつ,新たに決済資金を融資した。
拓銀において,こうした救済融資を行う義務も必要性もなかったことに加え,本件追加融資と同一時に同一相手方に対するまさに不可分な形で申請,決裁がされたこと等を勘案すれば,本件手形貸付は,過振行為の追認ないし過振隠蔽行為といわざるを得ない。特に,過振資金が仕手戦のような反社会的行為に費消されていたことを認識していながら,過振小切手決済資金を融資するとなれば,それは同時に仕手戦の事後的幇助に当たる。
また,控訴人らが,本件投融資会議において,回収財源,返済能力,返済目途の検討を十分に行っていたことを示す形跡は,全くない。
殊に,仕手戦失敗がほとんど明らかなこの時期に,回収財源も明らかにせず,融資後1か月で68億4000万円もの大金が返済されるはずがないことは自明である。
現に,控訴人Dは,本件投融資会議において,平成2年3月以降に栄木不動産が倒産する可能性が高いことを説明していた。
さらに,本件投融資会議における決裁に至る意思決定過程や,その前提としての調査内容は,極めて杜撰であった。
すなわち,本件投融資会議前に,拓銀内部において,融資につき,特定の組織あるいは担当者が具体的に調査,検討した形跡は見られない。
融資判断に必要不可欠な担保評価についても,本件投融資会議の時点において,銀行内部の正式な評価作業は行われていなかった。
本件投融資会議において,検討資料が全く存在しないまま,融資決裁がされた。
とりわけ,本件においては,前記「貸出運営上の留意点」は全く無視され,担保があるはずであるからという理由だけで,その調査,評価作業自体が銀行として行われる前に,融資決裁がされている。
しかも,事後的な担保評価作業においても,倒産寸前の企業の担保評価に,「貸出先の企業活動の存続があってこそ担保として評価できるもの(開発方式による鑑定手法等)」を堂々と組み込んで数字を作り出すなど,基本から外れた欺瞞的な対応に満ちている。
被控訴人側において,通常の担保掛目を用いて改めて適正に担保評価を行ってみても,その金額はせいぜい8億円程度にすぎないのであって,その意味では,実際の回収額が約7億円にとどまっているのは,もっともなことである。
エ 以上要するに,本件追加融資にも銀行融資一般における融資の基本原則が妥当するのであって,緊急・不可欠の融資であったなどとして融資の基本原則を修正するのは相当ではない。
そもそも,本件追加融資までの経緯に照らすと,本件追加融資は,銀行がしてはならない融資だったのであり,融資にあたっての内規(前記貸出運営上の留意点)に違反した上での担当役員の裁量を論じる余地はなく,担当役員相互の役割分担による具体的注意義務の減免を認めることもできない。
また,本件追加融資自体が銀行としてしてはならない融資であったことに鑑みると,徴求した担保の評価が相当なものであったとしても,融資自体が不当であることに変わりはないのみならず,本件における杜撰な担保評価に照らすと,本件手形貸付及び本件追加融資は,千葉支店における過振事故を隠蔽する目的によるもので,上記杜撰な担保評価は,本件追加融資に見合うように作出されたに過ぎないものであったというべきである。
オ 以上のとおり,本件投融資会議において本件手形貸付及び本件追加融資を決裁した控訴人らの判断には,合理性が全く窺われず,控訴人らには,取締役として尽くすべき注意義務を怠った注意義務違反がある。
本件手形貸付及び本件追加融資の残高は,合計61億1646万9469円であるところ,現在も回収不能又は著しく困難な状態にあり,拓銀は,控訴人らの注意義務違反によって,上記残高と同額の損害を被った。
カ よって,被控訴人は,控訴人らに対し,商法266条1項5号に基づく損害賠償請求として,上記損害金のうち10億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金を連帯して支払うことを求める。
(控訴人A及び控訴人Bの主張)
ア 本件投融資会議における各融資決定は,そもそも,被控訴人が主張するように,仕手戦資金として融資されたものではなく,既に千葉支店において発生した過振事故による損失を形式的に正規の処理ができる形にするとともに,その一部についてでも回復する目的で担保を徴求する方策としての,いわば時間稼ぎのためのものであり,本件手形貸付に伴う新たな出金はなかった。
そして,控訴人らには,本件追加融資される資金の具体的使途についての認識はなく,認識する必要もなかった。
換言すれば,20億円の追加融資によって一時的に栄木不動産を生き延びさせることによって,50億円余りの担保を確保できれば,その差額は,既に生じていた48億円余りの過振の損害の回復に充てることができたのであり,極言すれば,20億円の追加融資を超えた利益が1円でもあれば,目的は達成されたといい得る。
イ 過振事故発覚当時,Fらが仕手戦をしていたとの認識は,控訴人らにはなかったところ,控訴人らが,当時における対策として取り得る選択肢の一つとして,過振に係る栄木不動産振出の小切手を交換呈示して栄木不動産を倒産させ,関係者を告発提訴する強硬策があった。
しかし,当時の栄木不動産は,銀行借入が数百億円に及ぶ中堅企業であり,倒産の引き金が拓銀の不祥事故であるということになれば,銀行団に与える影響と拓銀の信用上の損失は計り知れないほど大きく,マスコミの標的とされることも覚悟しなければならない。
さらに,倒産となれば,不祥事故の48億円余りはもちろんのこと,拓銀関連会社の貸付金50億円余りも回収がほとんど期待できず,拓銀関連グループへの影響は甚大なものと予想された。
そこで,第2の選択肢であるところの,20億円を追加融資した上,48億円余りの損害を少しでも多く回収すべく全力を傾注する方策をとることとした。
ウ 48億円余りの過振の損害は,現金勘定として未整理のまま放置されていたが,実質的には栄木不動産の債務として存在していた。
本件手形貸付は,この債務を振替取引によって手形貸付けとして正常化し,同時に過振を解消するところに本質があった。
振替取引であるがゆえに,事前に回収の可能性を検討する必要もなかった。
すなわち,過振の損害を回収できるに越したことはないが,仮に,回収が不可能であったとしても,生じる損害は同一であり,そうであれば,勘定科目を正常化し,過振を解消して処理しやすくする方が,拓銀にとって有利であった。
本件追加融資についてみても,融資決定をしなければ明日にでも栄木不動産が倒産するという状況下で,不動産鑑定士の資格を有するKが,当時認められていた鑑定手法に基づいて地価上昇中に作成した鑑定書によって,栄木不動産が差し入れた担保物件の実効担保価格(見込時価ベース)を51億8700万円と評価した上,これをもとに控訴人らが融資決定の判断をしたことは,緊急時における最善の策であったというべきである。
被控訴人は,担保掛目や融資基準との齟齬を論難するが,本件は,既に生じた損害の目前の現実の回収が問題となっていた異例の事案であって,通常の融資案件とは全く事情が異なる。
なお,投融資会議における役員の担当事項は各役員によって異なり,本件追加融資についての具体的な調査や担保評価の報告を担当したのは控訴人Dであり,控訴人A及び控訴人Bとしては,控訴人Dからの調査報告等に基づいて本件追加融資について判断するほかなく,したがって,控訴人A及び控訴人Bとしては,担当役員であった控訴人Dからの報告を前提として,判断をすれば足り,また,控訴人Dから報告を受けた際には,その報告の真実性や信用性を疑うべき特段の事情もなかったのであるから,控訴人A及び控訴人Bにおいて,それ以上に控訴人Dからの報告事項について再調査をするといったような義務はなかったというべきである。
したがって,控訴人Dから受けた報告を前提とする限り,本件投融資会議において各融資を是認した判断そのものに誤りはなかったのであり,その点について,控訴人A及び控訴人Bに注意義務の違反はなかったというべきである。
エ 以上のとおり,控訴人A及び控訴人Bは,担当者から過振の事実とその解消及び回収のための手段について合理的な説明を受けた上で,各融資を相当と判断したものであり,何ら注意義務違反の事実はない。
なお,その後の不動産価格の暴落という予測できない事情による損失については,同控訴人らにおいて,何ら責任を負ういわれがない。
(控訴人C,控訴人Dの主張)
ア 本件は,被控訴人が,商法266条に基づいて控訴人らの取締役としての損害賠償責任を問うものであるところ,控訴人らは,訴外の第三者である拓銀の取締役であって,被控訴人の取締役ではなかったから,控訴人らが商法266条に基づいて被控訴人に対する取締役としての損害賠償責任を負ういわれはない。
イ 投融資会議は,昭和59年5月10日の常務会で決議されて以来,平成8年に事実上その役割を終了したが,この間を通じて,拓銀の正式機関として規程上に認知されたことは一度もなく,会議という名前を冠しているが,合議体としての実態を伴わない中途半端な機関であった。
その発足の経緯から明らかなように,高額な融資案件について頭取によるスピーディーな融資を実現するために作られた対外的効果に重心を置いた頭取の諮問機関にすぎず,合議体でも決議機関でもない。また,会議出席者の意見を記録することもなかった。
したがって,融資を決定するのは頭取であり,投融資会議参加者が本件手形貸付及び本件追加融資を決定したものではないし,投融資会議参加者に取締役会出席者と同様の責任を課すべき前提も欠いているのであるから,本件手形貸付及び本件追加融資に関して,控訴人らが投融資会議に参加したというだけで取締役としての責任を負ういわれはない。
ウ 本件手形貸付は,既に発生していた過振事故による損害48億4000万円を栄木不動産に対する貸金に切り替えたものである。
栄木不動産に対して,現実に金銭が送金された事実はなく,新たに融資が行われたものではないから,これにより控訴人C及び控訴人Dが責任を負ういわれはない。
エ 過振事故の発生について,千葉支店から相談を受けた拓銀東京業務本部は,平成2年2月20日から25日までの切迫した期限の中で解決策を策定しなければならなかった。
解決の第1案として,栄木不動産の担保提供を求めず,GとFを刑事告訴して資産を差し押さえ,法に従って強制的に回収を図る方法が考えられたが,これでは,栄木不動産の倒産により拓銀グループで最悪75億円から100億円の不良債権を抱えることになると予測されたし,千葉支店の事故当事者に告訴が及ぶことにより拓銀の信用面のイメージダウンは計り知れず,被害金の回収も期待し得ないことが予測された。
他方,第2案は,栄木不動産を存続させ,48億4000万円の損害金を手形貸付債権に切り替え,担保物件をできるだけ提供させて,その処分により回収を図るという案であった。栄木不動産を存続させて担保を取得するため,20億円の運転資金の融資申出にも応ずることとするが,第1案に比べて損失は明らかに少ないし,拓銀の信用面への影響を避けることもできるというものであった。
控訴人Dは,千葉支店の同意を得た上,以上の2案を本件投融資会議に付議することとした。また,頭取や副頭取に対しても,随時報告を行っていた。
オ 第2案を選択した本件投融資会議の結果をみても,栄木不動産に対する48億4000万円の手形提供の要求は,それ以前に拓銀から流失した違法行為(過振)による損害金を正規の貸付金に転換するためのものにすぎず,栄木不動産に対して一切金銭の支払は行われていない。
20億円の融資については,栄木不動産から申し受ける担保確保のため,及び同社の資金繰りによる倒産を防ぐために,20億円を上限に分別して支援したやむを得ざる措置であり,控訴人らの判断に誤りはない。
また,栄木不動産から提供を受けた担保物件の評価を見ても,本件投融資会議の時点における評価は,不動産鑑定士の作成した根拠のある時価評価を基準にしたものであり,その後行った評価手続(乙ロ14)は,拓銀の規程や手引に基づくもので,何らの違法性はない。
なお,その後の物件の減価の原因は,主として,バブル崩壊によってとりわけ商業地域の地価下落が急激であったこと,栄木不動産倒産後,担保物件の処分が,任意売却ではなく,すべて競売となったこと,拓銀の競売申立てが遅れたこと,拓銀の回収態勢が弱体化したこと等が主要因である。
カ そもそも,本件のような場合には,取締役の経営判断による裁量に委ねられるところが大きく,いわゆる経営判断原則が適用されるべきである。
そして,経営判断における注意義務違反については,取締役が判断対象となる事実の認識について不注意な誤りがなかったかということとその事実に基づく意思決定が通常の企業人として著しく不合理なものでなかったかいう視点から審査されるべきところ,本件における上記第2案選択の過程における前提事実の認識に不注意な誤りはなく,また,第2案選択の意思決定は,合理的な裁量の範囲内のものであったというべきである。
キ 以上のとおり,控訴人C及び控訴人Dについては,何ら責任はない。
(控訴人Eの主張)
ア 被控訴人の請求額のうち,48億4000万円については,千葉支店で起
きた過振事故により回収不能となった損害金を過振先であるFから栄木不動産に肩代わりさせたものであるから,本件手形貸付によって拓銀に同額の損害が発生したものではない。したがって,損害賠償請求の対象となり得るのは,残り20億円の本件追加融資だけであるところ,これについては,栄木不動産より,20億円を支援してくれればFの債務を肩代わりして自己の債務とした上,全所有物件を担保に入れる旨の申入れがあり,控訴人Eとしても,限られた時間内に判断しなければ栄木不動産が倒産してしまうという緊迫した状況下,栄木不動産の申出を断り同社を倒産させて48億4000万円が回収不能となるよりは,申出を受けて担保を取得した上,その担保から20億円以上を回収できれば,48億4000万円の損害の一部でも回収に充てることができ,拓銀にとって得であると判断し,融資の承認を行ったものである。その判断が合理的で善管注意義務や忠実義務に違反していないことは明らかである。
イ 控訴人Eの本件追加融資の承認の判断が,具体的な法令及び定款に違反しているかどうか,忠実義務に違反しているかどうか,判断の前提となる事実の認識(及びそのための事実調査)に不注意な誤りがあったかどうか,意思決定の過程及び内容に不注意な誤りがあったかどうかといったいずれの要素から見ても,経営判断としての裁量の範囲を逸脱するものではなく,善管注意義務や忠実義務に違反する事実はない。
ウ すなわち,控訴人Eは,平成元年末にエスビーに対する融資を決議する際,エスビー株がFや栄木不動産に買い占められ,それを買い戻すための代金を融資するという説明の中で,Fや栄木不動産の名前を聞いたのみであり,その間,拓銀が従前のFや栄木不動産との間でどのような交渉を続けていたのか,知る由もなかった。Fや栄木不動産がケーヨー株について仕手戦を行っていたことや,本件の過振事故の経緯等に関する説明は,本件投融資会議の場で初めて説明を受けた。
その上で,こうした説明内容をもとに,控訴人Eの注意義務違反の有無について具体的に見ると,まず,本件追加融資を承認するに当たり,被控訴人が主張するような責任追及等の先延ばしの意図はなく,何ら法令定款違反行為はない。本件追加融資の承認を判断する上での前提事実について,その認識及び調査に誤りはないし,判断内容も合理的である。
殊に,最も重要な担保の評価額の点については,直ちに不動産鑑定士に鑑定を依頼し,登記簿謄本を取って先順位抵当権の額を調査し,主な物件の実査を行うなどの作業をしており,その上で,担保価格が55億円から100億円であること,時価余力にして30億円から70億円が見込まれること等の報告を受けたものである。
ここで報告された評価額は,限られた時間の中で収集し得た最大限の情報であり,何ら不注意な誤りはない。
この点,被控訴人は,開発法について種々論難しているが,開発法自体は,不動産鑑定基準の中に定められた正式な鑑定手法であり,再開発ができた場合の利益を見込んだ方法では決してなく,再開発の可能性を想定しつつも,あくまで素地としての価格を求める手法なのであるから,被控訴人の主張は当たらない。こうした鑑定評価にもかかわらず,少額の回収しかできなかったのは,バブル崩壊により不動産価格が予想できないほど急落したためであり,当時の経済情勢を踏まえるならば,結果として回収できなかったことは,控訴人らの責任ではない。
なお,担保徴求物件についての担保余力の評価は,融資判断時点における評価によるべきであって,融資実行後の担保評価によるべきではない。
また,本件追加融資のように担保徴求が最大の目的となる案件においては,追加融資額と徴求担保とを比較して,担保徴求による追加融資の方が有利であるとの比較判断がなされた上で,融資が実行されるのであるから,事後的に,徴求担保による現実の回収額がそのために融資した追加融資額を少しでも下回れば,追加融資自体が遡って不当であったというのは相当でない。
そして,平成2年2月22日の投融資会議当時における栄木不動産の担保余力(回収見込額)は,少なくとも24億7760万円以上あったというべきであるから,本件追加融資を実行した控訴人らの判断に誤りはなかったというべきである。

第3 争点に対する判断

1 争点(1)について
控訴人C及び控訴人Dは,本件訴訟について,被控訴人が請求の主体となって控訴人C及び控訴人Dの取締役としての責任を追及している訴えであるから,その管轄は,商法268条1項により,被控訴人の本店所在地の裁判所である東京地方裁判所に専属する旨主張するが,同主張は,上記控訴人ら限りの独自の主張であって,採用することはできない。
すなわち,商法268条1項にいう「会社」は,当該取締役が就任中の又は就任していた会社を指すことは明らかであるところ,本件は,拓銀の取締役であった控訴人C及び控訴人Dに対し,商法266条に基づいて拓銀が被った損害の賠償を求めるものであるから,この場合における商法268条1項の本店は,控訴人C及び控訴人Dが取締役に就任していた拓銀の本店でなければならない。
そして,本件記録によれば,本件訴えは,平成10年12月15日に原審裁判所に提起されたものであるところ,当裁判所の職権に基づく調査嘱託の結果によれば,拓銀の平成10年12月15日現在の本店は,札幌市b区cd丁目であるから,本件の第1審の管轄は,原審である札幌地方裁判所に専属していたことが明らかである。
したがって,専属管轄違背をいう控訴人C及び控訴人Dの主張は,理由がない。
2 争点(2)について
(1) 控訴人C及び控訴人Dは,拓銀から整理回収銀行に対する売却資産中に控訴人らに対する損害賠償請求権を含めることが信託法11条に違反するものである旨主張するところ,本件における被控訴人からの訴え提起以前に,拓銀が原告となって訴えを提起した事実が認められるものの,そのことのみを捉えて,上記資産売却が,もっぱら訴訟信託を目的とするものであったと認めることはできない。
また,甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば,上記資産の売却は,拓銀破綻後における預金者保護の一環として預金保険機構が特別資金援助をするなどして実行されたものであること,被控訴人(旧整理回収銀行)は,旧大蔵省が発令した業務改善命令に基づいて設置された与信調査委員会による調査結果及び拓銀という都市銀行が破綻したことについての国民世論に照らし,控訴人らに対する民事上の責任追及を相当と判断し,本件訴え提起に至ったことが認められ,こうした経緯に鑑みると,上記資産売却をして信託法11条に違反するものということはできない。
したがって,上記控訴人らの主張は理由がない。
(2) 次に,商法266条1項5号に基づく損害賠償請求権は,取締役の法令定款違反行為を責任原因とするものであるが,その性質において,一般の債務不履行に基づく損害賠償請求権と異なるところはない。
ただ,会社の取締役に対する責任追及が訴訟の場で行われる場合に,他の一般業務と同様に取締役会及び代表取締役に訴えの提起及び訴訟の進行を委ねると,いわゆる馴合いによる訴訟が懸念されることから,商法275条ノ4は,会社と取締役の馴合いを防止するために,会社が取締役に対して訴えを提起する場合については,監査役が会社を代表する旨を定めたものである。それは,会社と取締役との紛争を訴訟によって確定させる場合の規定であって,訴訟以外の方法による任意の賠償等についてまで必ず監査役が会社を代表すべきことを定めたものではない。
また,会社の取締役に対する損害賠償請求権等が第三者に譲渡されることや譲渡後に第三者が当該取締役に対し,譲り受けた損害賠償請求権の履行を求めて訴えを提起することは,商法275条ノ4が目的とする,会社との馴合い訴訟の防止の趣旨に反するものでもない。
もっとも,第三者への譲渡そのものが馴合いによる解決を目的として行われたような特段の事情が認められる場合には,商法275条ノ4の潜脱行為と評価した上で,監査役による譲渡又は監査役の譲渡承認を要すると解する余地がある。
これを本件についてみるに,拓銀から整理回収銀行に対する売却資産中に控訴人らに対する損害賠償請求権を含めたことが商法275条ノ4の趣旨を潜脱する目的でなされたと認めるべき証拠もない。
むしろ,馴れ合い訴訟を防止する観点からは,自行の取締役に対する損害賠償請求権については,破綻した金融機関の債権回収を主たる目的のひとつとする整理回収銀行へ譲渡することこそが,経営破綻した拓銀の選択として好ましいものであったとすらいうべきである。
したがって,商法275条ノ4違反をいう控訴人A,控訴人B,控訴人C及び控訴人Dの主張は理由がない。
(3) なお,控訴人A,控訴人B,控訴人C及び控訴人Dは,拓銀の控訴人らに対する損害賠償請求権の譲渡制限事由等について,上記のほかにも縷々主張するが,いずれも同控訴人ら独自の見解であって採用できない。
すなわち,資産買取契約に損害賠償請求権が含まれていないとの主張部分については,証拠(甲2の1)によれば,拓銀と整理回収銀行との間の資産買取契約書第3条(2)において,拓銀の栄木不動産に対する貸金債権を含む貸出金及び拓銀の役員に対する損害賠償請求権を買取資産の内容とすることが明記されており,拓銀の控訴人らに対する損害賠償請求権が整理回収銀行に譲渡されたことは明らかであり,これを覆すに足りる証拠はない。
また,損害賠償の請求金額等の決議,書面送付等がないとの主張部分については,そもそも,会社が取締役に対して損害賠償請求をするにあたって上記控訴人らが主張するような決議あることを要するとは解されないのみならず,損害賠償請求権を他に債権譲渡するにあたって,譲渡前に請求金額を確定する必要があるとは解されないし,債務者である取締役に対して債権の内容を詳細に記載した書面を送付しなければならないとも解されず,本件において,拓銀が平成10年12月に送付した同月3日付け通知書(甲2の2の1から5)各記載の譲渡に係る債権についての前記事案の概要1(4)ウ摘示のとおりの記載をもって債権の特定に欠けるところはないものと解するのが相当である。
さらに,拓銀の控訴人らに対する損害賠償請求権は,拓銀の営業の全部又は重要な一部とは認められないから,これを譲渡する場合に商法245条1項による決議が必要であるとは解されず,その余の各主張についても,いずれも,上記控訴人ら独自の前提に基づくもので採用することができない。
また,控訴人C及び控訴人Dは,被控訴人の本件請求が商法266条に基づいて控訴人らの取締役としての損害賠償責任を問うものであるのに,控訴人らは,訴外の第三者である拓銀の取締役であって,被控訴人の取締役ではなかったから,控訴人らが商法266条に基づいて被控訴人に対する取締役としての損害賠償責任を負ういわれはない旨主張するが,本件請求は,控訴人らに対して拓銀の取締役としての責任を追及するものであることは明らかであるし,被控訴人が拓銀の控訴人らに対する損害賠償請求権を譲り受けたことが認められることは,前記のとおりであるから,上記控訴人らの主張は,採用しない。
3 争点(3)について
(1) 本件手形貸付,本件追加融資に至る事実経過
前記事案の概要摘示の事実と証拠(乙イ1,2,乙ロ45,48,乙ハ4,原審における証人N,証人O,控訴人D本人,控訴人C本人,控訴人E本人,控訴人B本人,控訴人A本人及び以下の各項に掲記のもの)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件手形貸付及び本件追加融資に至る経過として,次の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
ア 千葉支店は,昭和63年7月ころから,Fとの間で取引を開始し,平成元年5月2日,Fの紹介で,栄木不動産に対し,土地購入資金として2億5000万円を貸し付けた。
(甲5の1ないし4,9,23の1の1・2)
イ 平成元年10月27日,同年11月17日及び同月20日,当時,千葉支店次長(渉外専任)であったHは,Fが栄木不動産振出しの小切手(支払場所は第一勧銀亀戸支店等であり,金額は,それぞれ6000万円,5億円及び3億円である。)を同支店に持ち込んだ際,Fの要請に応じて,これを現金による入金があったものと仮装して,Fの普通預金口座に入金する等の処理をした。
さらに,同月22日,Hは,Fが栄木不動産振出しの小切手(支払場所は第一勧銀亀戸支店,券面額は7億5000万円)を千葉支店に持ち込んだ際,Fの要請に応じて,同日,その小切手を交換に回す前に,Fの普通預金口座に同額を入金し(当日他券過振),これを事後的に当時の副支店長であったPに伝えた。同月29日及び30日にも,Fに対する当日他券過振が同様の方法で行われた。
その後も,千葉支店では,Fに対して,栄木不動産振出しの小切手による当日他券過振が続けられた。
なお,拓銀においては,小切手等が呈示のため持ち込まれたときに取引先の支払可能残高を超えて支払をする過振を容易に認めることは事故につながる危険性が懸念されるところから,従前より,特に他券過振(過振のうち,取立確定前の他券を見合いとする支払)については,当該他券の決済見込みについて十分注意するよう留意を促すとともに,事故報告等についても内部規定を定めていた。
(甲9,23の2ないし4,36の1・2)
ウ 平成元年11月ころ,千葉支店において,F及びGらが,上記過振による資金等を利用して,エスビーの株式を大量に取得するなど,仕手戦を仕掛けている状況が判明するに至った。
このころ,エスビーは,Fに対して自社株を買い戻すための交渉をしていた。
なお,Fらによるエスビー株の仕手戦が収束したのは平成2年1月16日であった。
(甲8の1・2,9,23の2ないし4,33,57,67)
エ 平成2年1月4日,Fから千葉支店に対し,栄木不動産あてに20億円を融資するよう申入れがあった。
千葉支店の報告を受けて,L第二支店部長及びJ支店長らは,同月11日,Fと面談した。その際,Fは,エスビー側に株を良心的に譲渡したこと,Fが拓銀株を800万株保有していることなどを述べていた。
同日,拓銀においては,頭取(控訴人A),副頭取(控訴人B,控訴人C,控訴人E)及び担当本部長(控訴人D)をもって構成する投融資会議の場で,Fに対する今後の対応等に関する協議を行ったが,融資の可否につき,この時点で結論は出なかった。
その後,L部長及びJ支店長が同月16日にGを訪問した上で,同月18日,投融資会議の場で,栄木不動産に対する20億円融資の案件が再度協議された(控訴人Eは,欠席)ものの,結論は出なかった。
(甲23の1の1・2,23の2,26の1・2,27の1ないし3,57,67,68)
オ 上記の期間中の平成2年1月10日,千葉支店のH副支店長(同月4日に次長から副支店長に昇進した。)は,Fが持ち込んだ栄木不動産振出しの小切手(金額9億2000万円,支払銀行第一勧銀亀戸支店)について,Fの要請に応じて,当日他券過振を行った。同日以降,Fは,ほとんど連日,千葉支店に栄木不動産振出しの小切手を持ち込み,過振を要請した。
H副支店長らは,Fの要請に応じて,当日他券過振を続けた。過振出金した資金の大半は栄木不動産の口座に入金され,Fが前日に持ち込んだ栄木不動産振出しの小切手の決済資金に充てられていた。
過振金額は連日増加し,過振出金された金員のうち,小切手の決済資金に充てられなかった部分(すなわち,過振金額の増加部分)は,ケーヨーの株式売買の資金に使用された。
この間,Hは,Fから,ケーヨーの株式の買増し資金が必要であること,Fとケーヨー側との交渉(Fからケーヨーに対する株式引渡しの交渉)は早期に調う見込みであり,これによって過振解消も可能であること等を聞かされていた。
(甲9,23の2,33,乙ロ12)
カ J支店長は,平成2年2月13日,この当日他券過振の事故を知った。過振金額は35億7000万円になっていた。当日他券過振は連日行われていて,過振を停止すると,栄木不動産振出しの小切手は,たちまち不渡りになることが明らかであった。
しかし,J支店長は,Hから,Fによるケーヨー株売却によって同月21日には過振解消が可能である旨,報告を受け,これを信用し,現在株式の買取りの交渉が行われており,ケーヨーの仕手戦が間もなく決着し,同月21日までには過振は解消されると考え,過振事故を東京業務本部に伝えなかった。だが,その後も,当日他券過振は続き,過振額は増大していった。
(甲9,23の1の1・2,23の2,33,45,乙ロ12)
キ J支店長は,平成2年2月20日(火曜),東京業務本部の第二支店部次長であったM,審査役であったQらに過振事故を報告した。
その際,J支店長は,過振による資金がケーヨー株の仕手戦に使われていた旨説明した。
同日の過振額は44億9000万円になっていた。東京業務本部は,J支店長に対して,過振残高の凍結と過振解消の折衝,担保の取得等を指示した。
J支店長は,同日,Gに会い,過振解消を要求した。Gは,ケーヨーの株式売却が延びているので今少し待って欲しい,担保を差し入れると答えた。
(甲9,23の1の1・2,33,34の5,68)
ク 控訴人D及び控訴人Cは,平成2年2月21日(水曜)までに,この過振事故発生の報告を受けた。千葉支店では同日も当日他券過振が行われ,金額は48億4000万円になった。
同月22日(木曜),Gが東京業務本部を訪れた。控訴人Dは,L部長及びJ支店長同席の上,Gと面談した。この席で,Gは,過振について陳謝するとともに,3月8日までにはケーヨー株の問題も決着する見込みであること,拓銀に対し担保の提供をすることなどを話した。
東京業務本部では,@ケーヨーの株式売却が短期間のうちに決着する見込みはないこと,AFには担保権が設定された自宅以外にみるべき資産がなく,債権を回収できる可能性はないこと,B過振による資金は栄木不動産が実質的に使用していること,などの事情から栄木不動産から回収を図ることにし,栄木不動産から担保を取得する方針を決めた。
同年2月22日,控訴人Dは,拓銀のOBで不動産鑑定士をしていたKに対し,栄木不動産所有の12物件について,至急鑑定するよう電話で依頼した。
この際,控訴人Dからは,机上鑑定でよいから2日余りで鑑定結果を返答してほしいこと,時間がないので,地上げ途上物件を含め,すべて更地評価でよいこと等の依頼条件が伝えられた。
同日も千葉支店では当日他券過振が行われたが,金額は前日と同額であった。
(甲9,23の1の1・2,33,34の6,39の1,96,乙ロ13)
ケ 平成2年2月23日(金曜)の朝,電話会議の方法により,控訴人らが参加して(ただし,控訴人Eは除く。),事故報告会が開かれた。
席上,控訴人Dから,事故の事実関係,前日のGとの面談結果,とくに栄木不動産から担保提供を受けること等の報告,説明がされ,今後の対応について協議された。
出席者からは,担保の提供を受けて,過振金額に見合う金額を融資することについて,異論は出なかった。
この日も前日と同様に,Fが千葉支店に対し第一勧銀亀戸支店を支払銀行とする小切手を持ち込み,千葉支店は,前日と同様に,48億4000万円の過振出金を行った。この小切手は,同日午後,交換に回され,拓銀は第一勧銀からこの小切手の金額48億4000万円を受け取った。
(甲9,23の1の1・2,78)
コ 平成2年2月24日(土曜),Kから控訴人Dに対し,電話による口頭連絡の形で,鑑定結果の報告があった。12物件の総額は,約155億円という内容であった。
同日午前11時20分ころ,GからJ支店長に電話があり,Gは,2月26日(月曜)の資金繰りが狂い,同日に7億円が必要である,当面の資金として20億円の追加融資をしてほしい,と要請してきた。さらに,同月24日,午後3時30分ころ,Gが千葉支店を訪れ,J支店長らに対し,資金繰りが厳しく同月26日に7億円が必要であること,担保は栄木不動産が生き抜いて価値が出るが同社が倒産すると価値はないこと,拓銀から20億円の追加融資をしてほしいこと,第一勧銀からの調達は難しいこと,拓銀で融資ができないなら日本エンタープライズディベロップメントに頼むので拓銀に担保提供はできないこと等を述べて,追加融資を強く要請した。
これに対し,J支店長は,追加融資はできないと拒絶した。
同月24日午後9時ころ,J支店長とGが電話で折衝した。Gは,20億円の追加融資を求めたが,J支店長は,20億円については,主力銀行である第一勧銀など他の金融機関から調達するようにと答えた。
(甲39の1・2,58,68,96)
サ 平成2年2月25日(日曜),控訴人Dは,L部長,M次長,J支店長らとともに,保全対策について協議した。
Mらは,同日午後3時ころ,栄木不動産を訪れ,Gの了解のもと,担保設定に必要な不動産の権利証類を持ち帰った。
このときにも,Gは前日と同様の話をして,追加融資の申入れを行った。
Gは,第一勧銀等から融資を受けることは困難であると話した。
この後,Mは,翌日の本件投融資会議に案件を付議するための準備作業にとりかかったが,申請書や担保評価に関する資料等は,会議前に完成しなかった。
(甲58,68,96,乙ロ13)
シ 平成2年2月26日(月曜)午前9時ころから,控訴人らが全員参加して,本件投融資会議が開催された。まず,控訴人Dから,同月21日に拓銀千葉支店の過振事故が発覚したこと,翌22日にGが来行し,ケーヨー株の件が同年3月8日に決着するので,同日を返済期日とする手形貸付けに切り替えてほしいという申入れ及び担保を提供する旨の話があったこと,同年2月24日の段階で,Gから,ケーヨーとの話合いが付かず,同月中にあと20億円(48億4000万円と併せて合計で68億4000万円)が必要で,拓銀が追加融資に応じなければ担保を提供しない旨の話があったこと,同月25日の段階で,Gから,同月26日中に7億円の資金が必要であり,うち4億円については手当をした旨の話があったこと等の報告がされた。
なお,追加融資が求められている20億円の具体的な使途や,現実の必要性について,詳細な説明や資料の提供はなかった。
次いで,控訴人Dは,東京業務本部の案ということで,栄木不動産から担保(不動産)を取得した上,同社に対し本件手形貸付及び本件追加融資を行うという案について説明した。このとき,担保評価については,K鑑定士の評価額が約155億円であること,栄木不動産の評価額が200億円であること,先順位担保権100億円を控除しても55億円から100億円は残ること,時価余力は30億円から70億円であること等の説明がされた。
この席では鑑定書等の担保評価に関する資料は配付されず,担保不動産の評価は口頭で説明された。
協議の中では,本来は48億4000万円に見合う担保の申受けにとどめるべきであるが,20億円の融資を第一勧銀など他の金融機関に持ち込まれた場合には拓銀が担保を取得できない懸念が強く,48億4000万円の保全ができなくなる,栄木不動産の先行きの見通しは困難だが事業の再建を図る意欲がある,48億4000万円の保全に徹するべきであり,その後に栄木不動産が倒産してもやむを得ない,栄木不動産は同年3月にも不渡りを出す可能性がある,栄木不動産の債権者はほとんど金融機関であるから拓銀が栄木不動産から担保の提供を受けても詐害行
為とされることはないだろう,等の意見が出された。
そして,協議の結果,栄木不動産から一定の物件について根抵当権の設定(累積極度額は77億円)を受けることを前提に,栄木不動産振出しの小切手の資金不足による不渡りを避けるために,拓銀から栄木不動産に対し,過振と同額(48億4000万円)の手形貸付けを行うこと,さらに,栄木不動産に対し上限20億円の追加融資を行うことが決定された。
追加融資については,他からの調達を図らせ,融資額は必要最小限度にとどめるとともに,貸出し実行はできるだけ引き延ばすことが確認された。
この結論に対し,控訴人らの中で異論を述べた者はいなかった。
(甲10の1,58,66)
ス 平成2年2月26日(月曜)は,同月23日(金曜)に交換に回した小切手が,第一勧銀亀戸支店で決済される日であった。
ところが,本件手形貸付に係る48億4000万円を第一勧銀亀戸支店の栄木不動産の口座に送金していたのでは,決済に間に合わないおそれがあり,送金されても,栄木不動産がこの金員を拓銀が回した小切手の決済資金以外に使用するおそれもあった。そこで,拓銀は,銀行間の迅速な送金方法である日銀ネットを使用し,第一勧銀亀戸支店に48億4000万円を送金し,交換に回していた小切手を拓銀に戻す手続をとった。
このようにして,拓銀から栄木不動産に対する本件手形貸付が行われ,栄木不動産振出しの48億4000万円の小切手は不渡りを免れた。
また,同日以降,栄木不動産振出しの小切手による他券過振が行われることはなくなった。
(甲59,79ないし82,84,88)
セ 本件追加融資については,Gの申出により,本件投融資会議が行われた当日(平成2年2月26日)に5億円を融資した。
その後,拓銀のL部長,J支店長らとGとは,折衝を繰り返し,拓銀は他の金融機関からの借入れを勧めたりしたが,当面の金繰りのために必要であるというGの要請に応じて,翌27日に3億円,翌28日に3億円,同年3月に入っても,1日に3億6000万円,2日に2億5000万円を融資した。
さらに,Gは融資の要請を続け,拓銀は同月8日に1億4000万円,同月12日に1億5000万円を融資し,結局,当初予定した20億円の全額を,栄木不動産に融資した。
その使途は,栄木不動産の説明によると,小切手の決済資金等であったが,具体的に何に使われた資金なのかは拓銀において,詳細に把握できなかった。
そして,この間も,栄木不動産らは,ケーヨー株式の取引を継続していた。また,同月12日以降も,栄木不動産は拓銀に融資を要請したが,拓銀は同要請に応じなかった。
(甲58,68)
ソ 本件投融資会議の後に,Mは,「(株)栄木不動産に対する貸出案件(申請)」というタイトルの文書及び担保明細表等(甲10の1ないし4)を作成した。
Mは,栄木不動産所有の担保物件につき,通常の融資の際に用いられる,時価にいわゆる掛け目を乗じた実効担保価格による担保余力見込みの額を,当初は24億5000万円,次いで38億円として,それぞれ担保明細表を起案したが,控訴人Dから実効担保価格ではなく時価ベースで計算するようにとの手直しの指示を受け,最終的に51億8700万円から78億4900万円とする明細表(甲10の2)を作成し,控訴人らの持ち回り決裁を得た。
タ 拓銀内部における平成2年3月以降の栄木不動産徴求担保の調査に基づく評価額は,同月現在の見込み時価額約152億円から先順位担保債権額を控除した価額は,約51億円で,回収経費控除後の実効担保価格は約25億円とされ(乙ロ14),同年5月にける実効担保価格は約28億円とされていた(甲74)が,同年7月には実効担保価格が既回収分を含めても約18億円から22億円に落ち込んだ(甲12の1・2)。
(2) 本件投融資会議と控訴人らの責任について
ア 前記事案の概要摘示の事実及び上記(1)の事実によれば,本件手形貸付及び本件追加融資は,いずれも本件投融資会議で決定され,本件投融資会議に基づいて実行されたものであること及び控訴人らは,いずれも本件投融資会議において本件手形貸付及び本件追加融資の実行を承認したものと認められるところ,控訴人C及び控訴人Dは,本件投融資会議が拓銀の正規の融資決定機関ではなく,その決裁権限は頭取にのみ存するものであって,投融資会議に参加した取締役について取締役会に出席した取締役と同様の責任を認めるべき根拠がない旨主張する。
そして,同主張は,以下における控訴人らの具体的注意義務違反の有無についての判断の前提に関わることであるので,本件手形貸付及び本件追加融資についての控訴人らの注意義務違反を検討する前に,まず,上記控訴人らの主張について判断することとする。
なお,上記控訴人らは,そもそも,被控訴人が商法266条に基づいて控訴人らの取締役としての責任を追及するためには,控訴人らが被控訴人の取締役であったことを要するところ,控訴人らは被控訴人の取締役ではなかったのであるから,被控訴人に対し,商法266条に基づく損害賠償責任を負ういわれはない旨主張するが,被控訴人の本件請求は,拓銀の取締役であった控訴人らの拓銀に対する商法266条に基づく損害賠償責任を追及しているのであって,被控訴人の取締役としての責任を追及するものではないから,この点についての上記控訴人らの主張は採用できない。
イ 前記事案の概要(3)ア摘示の事実及び同掲記の証拠並びに弁論の全趣旨によれば,投融資会議は,拓銀の融資案件に関する内規(権限規程)において担当本部長の一般融資権限が30億円以下と定められていることについて,融資決定の円滑性及び迅速性を図るために,常務会の承認に基づいて設置されたものであって,その性質を拓銀の取締役会と同一に論じることはできないし,投融資会議に参加したというだけで,取締役会に出席した取締役と同様の責任を課すことも相当ではない。
ウ しかし,投融資会議は,拓銀の融資案件を具体的に審議するためのものであることは明らかであり,決裁権限のある頭取を除いた役員の注意義務を軽減するための機関であるとは到底解されないのであって,投融資会議に参加し,具体的融資案件の相当性を判断した役員が,その判断過程において,役員として要求される注意義務を欠いた場合に,注意義務違反の責めを免れると解するのは相当ではない。
エ したがって,本件投融資会議が,拓銀の正規の業務執行機関ではないとか,投融資会議に付議された融資の決裁権が頭取にあるということだけから,本件投融資会議に参加した控訴人らの取締役としての責任を問い得ないということはできない。
(3) 本件手形貸付について
 前記(1)で認定した事実を前提として,本件手形貸付について,控訴人らが責任を負うかどうかを判断する。
ア (1)の事実によれば,Fが持ち込んでいた栄木不動産振出しの小切手の決済は,連日,拓銀が過振出金した金員によって行われていたことが認められる。
平成2年2月26日に決済されるべき栄木不動産振出しの小切手については,拓銀が同日も当日他券過振を継続するか,あるいは栄木不動産に対して小切手金額に見合う資金を別途融資するかをしない限り,これが決済される可能性は全くなく,不渡りとなることは明らかであった。
すなわち,平成2年2月26日の時点において(さらにいえば,同額の過振を行った同月21日の時点において),過振出金した金額に相当する48億4000万円の損害は,既に実質的に拓銀に生じていたということができる。
イ 前記(1)スのとおり,本件手形貸付に係る48億4000万円の出金は,平成2年2月23日に交換に回した栄木不動産振出しの小切手が決済される前に,この返却を受けるために使用されたものであって,実質的にみれば,小切手交換の際に拓銀が第一勧銀から受け取った48億4000万円を返還したにすぎない。
ウ 以上のとおり,本件手形貸付は,過振によって既に発生していた損害を栄木不動産の債務として認めさせたにすぎず,また,栄木不動産振出しの小切手が同月26日に不渡りになったとした場合,過振金額48億4000万円のうち,一部でも回収ができたとも認められないから,本件手形貸付をしたことによって,過振による損害を拡大させた事実は認められない。
エ したがって,本件手形貸付による48億4000万円の回収不能について,これを控訴人らの行為(控訴人らが本件手形貸付に関与した行為)によって発生した損害とみる余地はなく,この点に関する被控訴人の主張は,理由がない。
オ また,被控訴人は,控訴人らが過振による損失の隠匿のみを至上目的として本件手形貸付を行った,あるいは控訴人らの行為は過振の事後幇助であるとも主張する。
しかし,本件全証拠によっても,控訴人らが過振による損失の隠匿のみを目的として本件手形貸付を行ったとは認められないし,本件手形貸付によって損害が拡大した事実も認められないことは前述したとおりであるから,控訴人らが本件手形貸付に係る48億4000万円について損害賠償責任を負う理由はない。
カ 以上のとおり,本件手形貸付に係る48億4000万円については,既発生の損失の帰属先を有担保者の債務に変更し,かつ,債務の形態を手形債務に転換させたというものであって,かつ,こうした転換によって,拓銀に新たな損害が発生したものとも認められないのであるから,控訴人らが本件手形貸付に係る48億4000万円について損害賠償責任を負うことにはならない。
キ なお,付言するに,本件手形貸付に係る48億4000万円については,その元となった小切手の過振処理そのものの発生原因とそれに対する管理・監督責任こそが本来問われるべきものと解されるところ,本件において,被控訴人は,過振による回収不能債権の累積をいわば所与の事実とした上で,控訴人らによる事後幇助的な対応を責任根拠に求めている。
それは,既に回収不能となってしまった累積債権額相当の損害を,控訴人らの事後対応を根拠に新たな損害として主張するに等しいものである。
しかし,これまで検討してきたように,本件手形貸付をもって,既存の損害についての責任を控訴人らに負担させるべき合理的な主張や立証はない。
(4) 本件追加融資について
ア 銀行が通常の融資をする場合には,融資の相手方がどのような者であるか,融資する金員の使途は何か,融資の相手方が行っている事業による返済は可能であるか,そして,融資に見合う担保の徴求その他の保全が可能であるのかといったことがらが検討されるべきことは当然である。
しかし,こうした融資の健全性や安全性は,通常の新規融資時には,そのまま修正を要せずに妥当するものであるが,継続中の取引関係から生じた損失処理の場面における諸々の対策の一環として実行される融資にまで何らの修正なくして妥当するものと解することはできない。
イすなわち,継続中の取引関係から多額の損失が生じた場合,銀行の取締役としては,当該損失発生の機序や管理責任等についての調査を行って,損失の拡大を防止するとともに回収による損失の回復等を図るべきであるが,その方策のあり方は,案件毎に多種多様であり,元となった取引関係の経緯,対策を要する損失の額,既徴求担保の有無・内容,処理に充てうる時間的余裕の有無等に応じて種々の方策が検討されることになる。
ウ その場合における,銀行の取締役としての判断要素を一律に決する客観的な基準はなく,特定の処理方策の安全性や相当性については,各取締役の知識や経験に基づく予測や判断の場面における裁量が認められる。
もとより,その裁量は,あくまでも,銀行の利益(公共性や公益性も含む。)をよりどころとして行使されるべきものではあるが,対策を迫られている損失が,本来の銀行業務としての適正を問われるものに起因して発生したか否かということの一事によって裁量の範囲が直ちに限定されるとまでいうことはできず,刑事告訴・告発及び監督官庁への報告並びに公表とそれに続く厳格な法的処理のみしか許されないといったものから,あくまでも,損失の拡大防止及び段階的な不正の解消並びに損失の回復及び保全を第1に検討すべきものまで多様な態様があるというべきである。
また,各案件毎の緊急性に応じて,最善の方策を求めうるものもあれば,臨時・暫定の次善の方策もまたやむを得ないというべき事案もありうる。
そして,まず何よりも具体的方策をとることが喫緊の要請となっているような事案においては,本来予定されている事前の調査や検討の内容が時間的に制約されることもまたやむ得ないものと認めるべき場合があるし,その際の各担当取締役の判断や予測について,その前提として常に精緻な資料を求めることは,不能を強いることとなって,相当でない場合があるというべきである。
エ これを本件についてみるに,控訴人らとしては,千葉支店における多額の過振を認識した時点で,以後の過振を中止させることを第1とし,累積した債権の債務者及び債権の形態をより正常な形に修正した上で,債権の回収及び保全を行うことを決断したことが認められ,こうした判断自体を捉えて,それが取締役としての注意義務に反したとか,銀行として選択すべきではない方策を選択した誤りがあったというのは相当ではない。
この点について,被控訴人は,そもそも,拓銀は,F,G及び栄木不動産との取引を一切中止し,刑事手続及び法的倒産手続を選択すべきであったとか,追加融資自体が全く許されない性質のものであった旨主張するが,本件全証拠によっても,当時の拓銀の選択として,被控訴人が主張するような方法以外の方法を選択することが許されない状況であったとまでいうべき事情は認められないし,控訴人らが,当時の拓銀の信用状況を維持しながら,千葉支店における過振事故を解決しようとしたことは,拓銀の取締役としての裁量を逸脱するものではないと認めるのが相当である。
したがって,被控訴人の本件における主張のうち,そもそも,拓銀による栄木不動産等への追加融資はいかなるものであっても許されないものであったということを前提とする主張は,いずれも採用することができない。
また,本件において,控訴人らが債権の保全・回収のための方策を検討するにあたって,Kによる短期間の調査結果を基礎としたことについては,当時の一日一刻を争う状況に照らし,誠にやむを得ないものであったし,控訴人Dがことさらに虚偽の評価報告をKにさせたといったような事情までは見当たらない以上(この点について,甲第96号証によれば,Kは,平成2年2月25日の午後8時又は9時ころ,控訴人Dから評価額を増額させるよう求められたことが認められるものの,同号証によれば,Kは,上記求めに応じなかったこともまた認められ,Kによる調査結果が不当な操作されたものであったとは認められない。),当該報告に基づいて栄木不動産の担保余力を判断した控訴人らに注意義務違反があったとまでは認められない。
オ ところで,被控訴人は,本件追加融資後の資産評価結果や実際の処分価格との乖離等から,Kの行った担保評価方法自体が杜撰であったとか,控訴人Dがことさらに担保評価を操作・作出したとして,控訴人らには,千葉支店における過振事故を隠蔽する目的があったものと認めるべき旨主張する。
しかし,控訴人らが,千葉支店における過振事故を直ちに告訴・告発し,あるいは公表しなかったことをもって,控訴人らに事件隠蔽目的があったとまでは認められないことは前述のとおりであって,控訴人らとしては,過振の中止とそれに続く債権の回収・保全を意図して検討を始め,刑事告訴や法的整理手続きを選択しなかったにすぎないというべきである。
また,控訴人Dが,Kをして担保評価作業をさせたことやその結果に基づいてその他の控訴人らに報告した経緯の中で,上記過振事故をことさらに隠蔽する目的があったと認めることもできない。確かに,Kの行った担保評価には,被控訴人が指摘するように正確性に欠けるところがあることは否めないものの,短時間のうちに大掴みに全国に散在する全12物件の担保価値を把握しなければならなかった当時の状況に照らすと,栄木不動産の各所有不動産のすべてに精密な実地調査その他の検討を加えなかった(ただし,甲第11号証の1ないし3,甲第39号証の1・2及び甲
第96号証によれば,Kは鑑定を依頼された物件のうち主要な3物件については実地調査を踏まえていたことが認められる。)ことをもって,直ちに杜撰な評価であったとか,不当に操作・作出されたものであったということはできない。
なお,本件追加融資時点における栄木不動産所有の各不動産の担保価値については,これを的確に示す資料を求めることはできないが,本件追加融資後の平成2年6月に実施された拓銀の担保評価結果によっても,約35億円の担保価値が認められていたことに照らすと,控訴人らが,喫緊の評価と判断を迫られていた平成2年2月当時において,本件追加融資額20億円を上回る担保余力を見込んだことをもって判断を誤ったものであったというのも相当ではない。
この点について,被控訴人は,銀行における融資の安全性の観点から,仮に,拓銀にとって栄木不動産からの担保徴求とそのための追加融資が必要であったとしても,それは,本来は本件手形貸付相当額の回収を目的として初めて是認されるものであり,したがって,追加融資額徴求担保価値を下回るならば,それだけで直ちに不当な貸付とみるべきである旨主張する。
しかし,これまでに認定した事実及び検討の結果からも明らかなように,控訴人らは,本件追加融資時点では,Kによる調査結果を踏まえて,栄木不動産から徴求する担保には余力があると予測した上で,本件追加融資を決断したのであって,その予測及び判断を捉えて注意義務に違反したとは認められない。
また,注意義務違反の有無は,上記予測及び判断の時点を基準として検討されるべきものであるから,事後における評価をもって,上記判断時の予測の当否をいうのは相当ではない。
殊に,平成2年3月以降の我が国の不動産市況は,金融機関による不動産関連融資の総量規制,地価の下落そしていわゆるバブルの崩壊といった経緯の最中にあったのであって(甲1,弁論の全趣旨),しかも,バブルの崩壊の経緯そのものは,平成2年当初から予測しうるものではなかったから,本件追加融資時点の予想処分価格とその後の実際の処分可能価格との乖離をもって,本件追加融資時における予測及び判断の誤りをいうのは相当ではない。
カ 次に,被控訴人は,本件追加融資が,さらなる仕手戦の資金として使用されたものであり,そうした使途を知って融資することは許されないところ,控訴人らは,そうした使途を知り又は容易に知ることができたにもかかわらず,本件追加融資を実行したのであるから,取締役としての注意義務違反が認められる旨主張する。
しかし,本件追加融資の目的は,前記認定のとおり,栄木不動産の特定の資金需要のためのものではなく,栄木不動産の当面の倒産回避目的による最低限の資金繰りのための資金として融資されたものであり,拓銀にとっては,何よりも担保を徴求するための手段であったのであるから,本件追加融資にかかる融資金が具体的にどのように使われるかについて,厳格な拘束を付す必要があったとは認められない。
なお,控訴人らの本件追加融資実行に際しての具体的な対応状況については,前記(1)ス及びセのとおりであり,控訴人らにおいて,本件手形貸付金や本件追加融資に係る資金が栄木不動産やGによって仕手戦に投入されることを警戒した上で具体的な融資方法を選択していたことが認められるのであって,本件全証拠によっても,控訴人らにおいて,被控訴人が主張するような栄木不動産の使途・目的を具体的に認識しながら本件追加融資を実行したとまで認めることはできない。
(5) まとめ
本件において,被控訴人は,千葉支店における過振事故による多額の累積損失自体を発生させた責任を正面から直接問うことはせず,48億4000万円の損失発覚後の対応について,控訴人らの責任を問うている。
そして,上記過振による回収不能損害額については,控訴人らに事件隠蔽目的による事後幇助的な対応が認められるとして,同額の損害賠償を求めている。
しかし,本件において,控訴人らが,千葉支店における過振事故を隠蔽する目的で本件手形貸付を実行したと認めるに足りる証拠はないし,本件手形貸付によって,拓銀が既発生の損害に加えて新たな損害を被ったと認めることもできないのであるから,本件手形貸付による損害の賠償を求める被控訴人の請求部分は理由がない。
次に,被控訴人は,本件追加融資が,銀行に求められる融資の健全性や安全性と全く相容れないものであったとして,担保評価に関わりなく,違法・不当なものであった旨主張し,仮に,本件追加融資自体の必要性が認められるとしても,追加融資額を超える徴求担保の価値が認められない以上,本件追加融資を実行した控訴人らには取締役としての注意義務違反が認められる旨主張する。
しかし,本件追加融資は,通常の銀行融資案件における安全性等の要請がそのまま妥当するものではなく,何らの保全策もないままに累積してしまった過振による多額の損失についての対応に迫られた控訴人らが,拓銀の利益のために選択した方法としての追加融資であり,それは,栄木不動産の即時の倒産を回避しつつ担保を徴求するための方策であったこと,そして,少なくとも本件追加融資額を上回る担保余力あることを見込んだ上での担保徴求及び融資であったこと,担保余力の評価判断については,被控訴人による事後的評価と大きく齟齬するところがあるものの,本件追加融資額当時の状況に照らし,やむを得ないものであったと認められることから,本件追加融資を実行した控訴人らに,拓銀の取締役としての注意義務違反があったとまではいえない。
したがって,被控訴人の控訴人らに対する本件請求は,いずれも理由がない。
4 結論
よって,本件控訴中の控訴人C及び控訴人Dの控訴のうち,原判決を取り消した上で本件を東京地方裁判所に移送する旨の裁判を求める部分は,理由がないから棄却することとし,同棄却部分を除く本件控訴に基づき,原判決を変更して,被控訴人の請求をいずれも棄却することとし,本件附帯控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

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